東京高等裁判所 昭和30年(う)1505号 判決 1955年11月26日
控訴人 被告人 佐藤国広
弁護人 佐藤義弥
検察官 玉沢光三郎
主文
本件控訴は之を棄却する。
理由
弁護人佐藤義弥の控訴趣意は本判決末尾添附の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これについて判断する。
一、第二点について
森林法第一九七条所定の森林窃盗の罪については、刑法の総則規定たらざる同法第二四四条第二三五条の規定が当然に準用あるものとなすべき一般的規定なく且つ右森林法規定による所定刑は刑法第二三五条の所定刑に比して相当軽い点よりみるも右刑法第二四四条の規定の準用はないものと解するを相当とする。
而して原判示第三の被告人の森林窃盗所為による被害者たる佐藤幸次郎および同佐藤健一郎が孰れも刑法第二四四条第一項後段所定の親族たること所論のとおりなるは記録上推認し得るのであるが、同時に右被害者両名が各当該窃盗事実につき告訴したことも原審証人佐藤幸次郎および同佐藤健一郎の各供述ならびに佐藤幸次郎および佐藤健一郎各提出の告訴状取下申請書等によつて之を認めるに十分である。尤も、右各告訴に関する刑訴法第二四一条第二項所定の告訴調書が記録に添綴されていないことは所論のとおりであるが、告訴を待つて論ずべき罪の訴訟条件たる告訴としては、その存在自体が明白たることを以て足り、告訴調書の存在の証明は必ずしも要するものではない。
故に、原判決がその摘示第三の森林窃盗罪につき有罪として審判したことにより所論のような訴訟手続上の違法を来すべき事柄ではない。論旨は理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 久礼田益喜 判事 武田軍治 判事 石井文治)
弁護人佐藤義弥の控訴趣意
第二点原判決は法令の解釈を誤つた違法があり、破棄を免れない。即ち判示第三の事実をみるに、被害者佐藤幸次郎は、被告人のおぢにあたり(五九丁)、同佐藤健一郎は、その妻が被告人のおばにあたる(七八丁)。これらは何れも法律上の親族にあたる。森林法第一九七条の森林窃盗は、刑法上の窃盗の一態様で窃盗に比較してその罰則が極めて軽いのである。従つて刑法第二四四条は此の場合にも適用されるのである。さて、右被害者らは、被告人と同居していたかどうかは判然とはしないが、少くとも告訴をした事を明瞭に表示する告訴状或は刑事訴訟法第二四一条第二項の告訴調書の存在する事は記録上明かにされていない。なるほど、右被害者等は法廷に於て、証人訊問に於て、告訴をした旨の供述をしているし、又告訴取下申請書なる書面をも作成しているので、告訴のあつた事をうかがわせる証拠はあるが、しかし刑事訴訟法第二四一条の要件に合致した法律上の手続としての告訴がなされたと言う事を明かに示す証拠はない。従つて此の部分に付ては親告罪の告訴なきものとして公訴を棄却すべきものである。
(その他の控訴趣意は省略する。)